「勝手にしやがれ」
ジャン・リュック・ゴダール作品を初めて観た時
「こんなオシャレな映画が存在するんだ!」
と衝撃が走ったのを覚えています。
フランスの文化も、ファッションも、歴史も知らない
ただの少年だった僕は、クラシックと呼ばれる映画がこんなにもスタイリッシュに撮影されていたことを初めて知りました。
18歳、九州から上京して初めての一人暮らし。
6畳のフローリングに、蚊取り線香のようなコンロが付いて8万4千円。
憧れの “自由が丘の部屋” で、ニトリで買った小さなベッドに座ってVHSをビデオデッキに入れる。
ブラウン管に映し出された世界にはオシャレな自由があり、少しワイルドでかっこいい映像が無尽蔵に映し出される。
九州の田舎で思い描いたような、自由でスタイリッシュな東京は、上京した僕の実際の生活の中にあるわけではなく
古びたビデオ屋さんで借りてきた、この映画の中に広がっているのでした。
ジーン・セバーグの短くカットされた ”セシルカット” は今もなお色褪せることはなく
むしろトレンドファッションのヒントになるほど洗練されています。
ショートカットとコケティッシュの融合を、初めて目にしたのも彼女でした。
スクリーンの中の女優の彼女は、か弱く、愛に溢れる女性でしたが
私生活では、政治活動を人知れず行うような正義感の強い女性でした。
彼女は人種差別に厳しい姿勢を示し、勇敢に政治団体や慈善事業団体へ働きかけ
生涯に渡り、自身の信じる理想を追いかけます。
ジーン・セバーグ40歳の時、
パリの路上に駐車していた車の中から
「もう耐えられない」と書かれた遺書が全裸死体と共に発見されました。
彼女でした。
FBIにマークされていたと噂される彼女の死は、大きな謎に包まれたままだと言われています。
強く、清らかに、正義に生きた美しい女優。
ジーン・セバーグの美しさには
強い意志と、美しい理想が隠されていたのです。
ようやく今、一人の美容師としてスタイルを作れる立場になりましたが
美容師の端くれとして
沢山の美しい人々を見て
沢山の美しさを勉強すればするほど
人の美しさには、ほんの少しの悲しみが
奥行きを出すような気がしてなりません。
美容技術では埋められない、その一人の女性の
生々しい美しさを
映画がいつも教えてくれる。
いい映画を、皆様の生活に。